生命の旋律

とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
いつからだろう……生命を考えるようになったのは。
生まれたときには考えることすら不可能で、
大きくなってもそんなこと思いもしなくて。
生命のやり取りをすることになったときも、そんなこと考える余裕が無かった。
考えられる余裕が出来た?……いや……慣れてしまっただけなのかもしれない……
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
僕は沢山の生命をこの手で奪ってきた。
天使の生命……人間の生命……
「今は戦争中だから」……そんな言葉をかけてもらえるけど、免罪符を受け取れるほど僕は許されることをしていない。
僕が生命を消し飛ばしたことは不変の真実。
逃げることも、目をそむけることも出来やしない。
一生……背負い続けなければならないこと。
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
僕の身体には……不思議な力がある……
ついこの前までは全然認識してなかったけど……
今にして思えば、風が吹いていないのに何か風みたいなものを感じていたり、
その風が気になってその方向に行ってみると、車にはねられて瀕死の子猫がいたり、
今にして思えば、その風は子猫の生きたいという悲痛な訴えだったのかもしれない。
今の仕事に就いて……トラバントシステムに触って……それがエーテルにアクセスする能力だと知った。
僕はどうやら、他人よりエーテルに対する感受性が強いらしい……
何でかわからないけれど……
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
たまに夢で、母さんが優しく励ましてくれるような声をかけてくれることもある。
……なんではっきり母さんだとわかるのか、それはわからない。
僕が覚えている母さんの記憶は、すごく小さいころのやさしく抱きしめてくれた温もりだけなのに……
母さんの顔も思い出せない……物心つくときには僕のそばにはいなかったから……
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
たまに自分がわからなくなるときがある。
エーテルに対する感受性、
夢で聞こえる母さんの声、
どれもこれも、普通じゃない。
僕は普通の男で……ほかの誰とも変わらない人間のはずなのに……
自分と他人で、何か大きな隔たりを感じる……
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
いろいろ悩んできたけれど、答えなんて出やしない。
いつ解けるかもわかりっこない。
それなら今は……考えるのはやめよう。
やらなきゃいけないことはいっぱいある。
今は戦争中……僕は軍人……これからまた、生命を奪わなければならないのだから。
 
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。
とくん……とくん……生命の脈動、
身体を流れる想いの旋律。